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店員にご注文はと聞かれて、ほとんど上の空でいつものようにビールを頼んだ。運ばれてきたビールを見つめるものの、ジョッキに手を伸ばす気にはならなかった。本当にビールが飲みたかったのかさえわからない。
小振りの丸テーブルを挟んで正対する玲子は、今にも泣き出しそうな顔をしていて、夏輝と目を合わせられないほど、落ち込んでいるように見えた。グラスの縁の塩が均等についたままのマルガリータを見ると、玲子も夏輝と同じように緊張しているのかもしれない。
「……浅田から聞いたでしょ? 私と、東城のこと……。夏輝ちゃんには、すごく迷惑をかけて……。本当にごめんなさい」
いつもは黙ってても金粉が放たれるのに、今日は輝きがまったくない。見ていて哀れなほどだった。
「そんな、私の方こそ知らなかったとはいえ、玲子さんを傷つけてしまって……」
なぜ玲子の方がこんなに傷ついているのか。妻であるはずの玲子が。
力なく首を振り、玲子は重い口を開いた。
「何て説明したらいいか……。私たち、入籍だけで、式は挙げてないの。仕事で忙しかったし、タイミングが合わなくて……。だから気持ちが切り替わらず、お互いいつまでも夫婦って感じがしなくて……」
玲子がまた首を横に振る。
「違う……。そんなことじゃないわね。うん、違う……」
自問自答して、仕切り直すように玲子が顔を上げる。
「私、今までずっと……東城の浮気に強く言えなくて」
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