第四章 近づく〈塔〉

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 店員にご注文はと聞かれて、ほとんど上の空でいつものようにビールを頼んだ。運ばれてきたビールを見つめるものの、ジョッキに手を伸ばす気にはならなかった。本当にビールが飲みたかったのかさえわからない。  小振りの丸テーブルを挟んで正対する玲子は、今にも泣き出しそうな顔をしていて、夏輝と目を合わせられないほど、落ち込んでいるように見えた。グラスの縁の塩が均等についたままのマルガリータを見ると、玲子も夏輝と同じように緊張しているのかもしれない。 「……浅田から聞いたでしょ? 私と、東城のこと……。夏輝ちゃんには、すごく迷惑をかけて……。本当にごめんなさい」  いつもは黙ってても金粉が放たれるのに、今日は輝きがまったくない。見ていて哀れなほどだった。 「そんな、私の方こそ知らなかったとはいえ、玲子さんを傷つけてしまって……」  なぜ玲子の方がこんなに傷ついているのか。妻であるはずの玲子が。  力なく首を振り、玲子は重い口を開いた。 「何て説明したらいいか……。私たち、入籍だけで、式は挙げてないの。仕事で忙しかったし、タイミングが合わなくて……。だから気持ちが切り替わらず、お互いいつまでも夫婦って感じがしなくて……」  玲子がまた首を横に振る。 「違う……。そんなことじゃないわね。うん、違う……」  自問自答して、仕切り直すように玲子が顔を上げる。 「私、今までずっと……東城の浮気に強く言えなくて」     
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