第四章 近づく〈塔〉

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 恐らく、それがこれまでのことの原因なのだろう。夏輝の脳裏にいつかのケルト十字が思い浮かんだ。  浅田は言っていた。問題の根底に潜んでいる原因が、逆位置の〈ワンドのクイーン〉だと。あれはきっと玲子のことだったのだ。 「でも浮気ですよ? 強く言ってもいいんじゃないですか? 玲子さんは……奥さんなんですから」  玲子がテーブルへ視線を落とす。マルガリータの塩の粒が一塊、力尽きたように音もなく液体の中へ落ちた。 「……私が東城を好きになったときは、まだ浅田と付き合っていたときでね。といっても浅田との恋愛関係は、とっくに親友同士みたいになっていたんだけど。惰性でそのまま付き合ってたのよね」  浅田が言ってた話と同じだ。 「でも東城にしてみたら、彼氏がいるのに誘惑してくる女でしかないでしょ? よくは思われないわよね。当然だけど」  玲子さんに好きな人ができたって言ってたけど、それ、東城さんのことだったんだ……。浅田の話を思い出しながら玲子の話を聞く。辻褄が合っているから、二人とも嘘偽りないことがわかる。――東城が「君もか」と夏輝に吐き捨てたのは、かつての玲子と重ねていたのか。     
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