第四章 近づく〈塔〉

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「前科があるから、多分東城も私のこと、信用してないと思う。だから他の……まっすぐに東城を好きな子に、彼はひかれてしまうのよね。夏輝ちゃんみたいに……。私じゃダメだったのよね」  そんな、と反論しようとする夏輝を制して、玲子は続けた。 「自分だけを愛してくれる人を強く求めるのは、彼が寂しい人だからと浅田は言うの。私は……その前科のせいで、どこか東城に気をつかって接していたと思う。それで東城も私に対してよそよそしくなって……。悪循環ね」  もしかしたら、東城も見た目がいいから、玲子と同じ孤独を味わってきたのかもしれない。だとしたら東城が寂しい人だというのは、理解できる気がする。 「浅田には昔から叱られてばかりだけど、今回は本気で怒ってたわね……。お前たちには覚悟が足りない、だから他の者を巻き込んで傷つけるんだって」  玲子はテーブルの上に置いた自分の手を見つめた。 「そうね、私たちは覚悟が足りなかった。遠慮なく夫婦をするという覚悟が」  その左手に、結婚指輪はない。 「……私がどうして東城の姓を名乗らないか知ってる?」  夏輝は首を横に振った。 「わかりません。最初は仕事上の都合かと思ったけど。指輪をしないことにも関係ありますか?」  呼び名が変わるのを嫌うだけなら、指輪はしたっていいはずだ。指輪をしないということは、玲子は多分、既婚者であることを隠したい。     
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