第四章 近づく〈塔〉

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「……籍を入れはしたけど、どこか不安が拭えないでいたのよね。いつか捨てられるんじゃないかって」  どうして……。普通は籍を入れるって、夫婦になるって、もっと心から幸せを感じることなんじゃないの? そんなことを思いながら籍を入れたのか玲子さんは。そんな状態、幸せだとは思えない……。 「結局周りの目を気にしてたからなのよね。『ほらね、やっぱりすぐ別れた』って言われることを怖がってた。既婚者であることを極力伏せてたのは、別れたときの保険だったのよね……」  何だか……寂しい人たちだな。いつもあんなに輝いてる二人なのに。二人の関係は、どこかねじれている。――浅田の言葉を真似るなら、東城と玲子は「逆位置」だ。  だけどその解決方法は、すごく簡単なことなんじゃないかと夏輝には思えた。 「玲子さんは、東城さんのこと、好きなんですよね?」  前のめりになって問う。 「すっごく、愛しているんですよね!?」 「夏輝ちゃん……?」 「答えてください」  玲子の目が、赤みを帯びて潤んだ。両手で顔を覆い、声を震わせながら答える。 「……好きよ。本当はすごく、愛してる……。でも――」 「『でも』じゃないんです!」     
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