第四章 近づく〈塔〉

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「浅田のやつ、『お前ら逆位置夫婦には敵わない相手だよ』ですって。本当あいつってムカつくわー」  今度は夏輝が、目を細めて笑った。玲子もやっと、軽口を叩けるようになったようだ。 「この前もね、浅田何て言ったと思う? 『お前今、〈ワンドのクイーン〉逆位置』ですって。もう本当うるさいったら!」  やはり〈ワンドのクイーン〉は玲子だったのか。 「私もよく浅田さんに、〈太陽〉の逆位置だって言われます」 「そういうとこがムカつくのよねアイツ」  二人で笑い合って、今日初めてグラスを口へ運んだ。ビールの泡は、とっくにへたっていた。 「あの……」 「なあに?」  玲子の笑顔は、以前のように光を放ち始めていた。 「その……」  ジョッキの流れ落ちる水滴を見つめる。――これを聞いてしまってもいいのだろうか。せっかく玲子との関係がよくなったのに。 「……いえ、やっぱりいいです」 「浅田のこと?」  ピクン、と顔が上がってしまった。 「いえ……」 「浅田のことね」  玲子は変わらず笑みをたたえている。 「いえ……、その……、……はい」 「いいわよ、何でも聞いて」  ふふ、と笑う玲子は何やら楽しそうだ。 「浅田さんも玲子さんも、お互いに親友のようなものだって言いますけど……。それでも、……未練、みたいなものはないんですか?」     
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