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玲子は眉一つ動かさずに夏輝の質問を聞いている。
「……いや、やっぱり今のなしにしてください! だって二人の本音ちゃんと聞いたし、今さらそれ疑うようなこと失礼ですよね! 本当ごめんなさいっ」
両手を大きく振って発言を掻き消す。だが玲子はそれをなかったことにはしてくれず、形のいいあごに軽く指を添えて思案顔になった。
「玲子さん考えなくていいですってば!」
「そうね……。うん、まったく未練はないわ」
自分でも驚くほどほっとして、たっぷりと息を吐き出した。
「――って言ったらやっぱり嘘になるのかしら」
急な方向転換に息が止まる。心臓がぎゅっと握られたような痛みに襲われた。え、という声が、ひどく弱々しく出てしまった。
「嫌いになって別れたわけじゃなかったしね。――そうね、例えばお互い失恋中で、傷ついていて、人恋しい状態で会っていたら、情を交わすようなことがもしかしたらあるかもしれないわね」
マルガリータのグラスの脚を指でいじりながら玲子が答える。
「でもたとえそうなっても、やっぱり私たちは今のままだと思う。これ以上にも以下にもならない」
グラスを持ち上げ、マルガリータを一口飲む。
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