第四章 近づく〈塔〉

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「さっき未練って聞いたけど、未練の種類が違うって言えばいいのかな……。恋人や夫婦としてほしい人ではないのよ。農家の嫁になる気もないし。浅田も多分同じこと思ってるわ。根本的に親友止まりなんだと思う、私たち」  テーブルにグラスを置いた玲子が、夏輝と目を合わせた。 「――って言われてもやっぱり嫌よね? 夏輝ちゃん、顔に出てるわよ」 「え……」  玲子に言われて、眉間に深いしわを刻んでいたことに気づく。歯も折れそうなほど食いしばっていた。 「心配しないで。本当に浅田とはそんなふうにならないから。私には東城がすべてだし……。それに私が全力で誘惑しても、これっぽっちもなびかないと思う。浅田にはもう、お気に入りの子がいるみたいだから。でもあいつ、態度で表すの下手だからねー。ちゃんと伝えてるのかどうか……」  あら、と玲子が目をしばたかせた。 「もう、伝わってるみたいね」  嬉しそうに、うふふ、と笑う。 「夏輝ちゃん、顔に出てるわよ」  玲子に悟られまいと、顔が赤らむのを必死に制御していたが、あっさり見抜かれてしまった。でも玲子の明るいその表情を見ていたら、恥ずかしいより嬉しい方が勝って、目頭が熱くなった。  いろいろあったけど、玲子さんとはもう大丈夫だ。これからも、ずっと。     
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