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「……でもね、私思うの。人間関係って、何もしないと保てないものなんだなあって。円満でいるってことは、円満でいるための努力をしなければ、いずれゆっくりと壊れていくんだと思う」
「やだ、怖いんですけど玲子さんっ」
「夏輝ちゃんだって、この先浅田か誰かと結ばれたとしても、何かのはずみで東城とまた付き合うかもしれないでしょう?」
「いやいや! それは絶対ありませんって!」
「あらわからないわよ? 例えば浅田と大ゲンカして――それも元気なケンカじゃなくて、すれ違いとか、誤解とか、疑うとか、信頼性が弱くなる類の暗いケンカね。それで夏輝ちゃんがとてつもなく寂しくなったところへ、今よりいい男になった東城が現れたらどうする? しかも東城もちょうど私とケンカして孤独なの。あ、それどころか別れて独り身になってる可能性もゼロじゃないわよね?」
「もうっ、やめてくださいよー。その浅田さんと付き合ってる前提も含めて」
こっちは熱くなったり寒くなったり忙しいのに、玲子はすっかりいつもの大らかさを取り戻して微笑んでいる。
「ごめんね、いじめちゃって」
……本当にいじめられてるのかと思った。一応玲子にとって夏輝は夫の浮気相手である。
「私が言いたかったことは、――浅田のこと、よろしくねってこと」
今までの微笑みと、少し違って見えた。
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