第四章 近づく〈塔〉

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 グラスを置いた玲子の雰囲気が、急に変わった。今までの朗らかさが表情から消え、泣きそうな目をしている。――あのときみたいだ。ホテルの前でやさしく突き飛ばされたときと同じ、もう会えないみたいな―― 「夏輝ちゃんと会うの、今日で最後にするわ」 「玲子さん!?」 「浅田とも会わない。東城の手綱もしっかり握るから、だからもう心配しないで」 「嫌です! どうしてそんなこと言うんですか?」  何でそうなるの? そんな……。 「私がいるといろいろ……上手くいかないと思うから。ずっとそうだった。そうでしょ? 浅田」  浅田は腕組みして黙って聞いていた。 「浅田さん、何とか言ってください!」 「……まあ、今まではそうだったな」 「ちょっ、浅田さん黙ってて!」 「お前な……」  どうしよう、何て言って止めたらいいの? 玲子さん本気だ。今ちゃんと説得しないと、本当に私たちの前からいなくなってしまう。 「浅田にも、長い間迷惑かけたわ」  腕組みしたまま、浅田が天井を見上げる。 「……そうなるのかな」  動揺する夏輝とは逆に、浅田は至極落ち着いていた。 「でもよ、玲子。そう早まらなくてもいいんじゃないか?」 「え?」     
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