第四章 近づく〈塔〉

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「あーうるせー。すげーうるせー」  棒読みで耳に指を突っ込んでいる。 「……いや、この景色見てたらさ」  浅田がぽつりと言うので、夏輝もつられて前を向く。東城と玲子が微笑みながら皆の祝福を受けていた。二人とも普段より優しそうに見える。こういうのを、「幸せそう」と言うのかもしれない。 「夏輝は『太陽の子』から『太陽』になったんだなって、思ったんだよ」 「――ええっ?」  前に浅田が話してくれたのを思い出す。〈太陽〉のカードに描かれた無邪気な子供は、やがて人々を照らし輝く太陽になると。正しい方向へ力を発揮すれば、夏輝もいずれ周りの人間を照らす太陽になるのかもしれないと。 「少なくとも玲子にとっては、お前は太陽だろうよ。お前のおかげで、今日が迎えられた」 「何か照れくさいなあ」  へへっと照れ笑いして、イヤリングをいじる。  あれから玲子と東城は、今までのすれ違い分を取り戻すため、徹底的に向かい合ったという。玲子いわく、「夏輝ちゃんに見せられないくらい、なりふり構わず想いをぶつけたわ」とのこと。でもそれがよかったのだろう。東城の心のすきまは玲子で満たされ、式をちゃんと挙げようと言い出したのも東城だったという。     
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