第四章 近づく〈塔〉

56/61
前へ
/156ページ
次へ
 感極まって、玲子と抱き合う。  玲子の幸せを、心の底から嬉しく思う。ようやく、この二人はスタート地点に立ったのだ。円満を継続するためには努力が必要だと玲子が言っていた。あとはこれから。――これからなのだ。  隣で見守っている東城は何も言わないが、すっかりすがすがしい顔になって玲子に微笑んでいる。 「東城さん」  話しかけようか迷ったが、今絶対言っておきたいと思い、夏輝は東城を呼んだ。東城はかすかに驚いた顔をしたが、彼なりに覚悟を決めていたのだろう、夏輝にまっすぐ体を向けて、言葉を待った。 「玲子さんのこと、幸せにしてください」  東城は小さくうなずき、 「約束する」  しっかりと答えた。東城も正位置になったのだ。これからは玲子だけを慈しむだろうし、二人で素直に愛情を注ぎ合うのだろう。 「夏輝ちゃん、これ受け取って」  玲子が、持っていたブーケを夏輝に手渡した。 「えっ、これ、後でブーケトスするんじゃ……」 「いいのよ。だってブーケに群がるほど女友達いないし」  参列者はそれなりの数だが、そのほとんどは会社の関係者。もう隠すのはやめる、名字も「東城」を名乗ると玲子は言っていた。今日はその宣言の日なのだ。     
/156ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加