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「何でそんなにむっつりしてんですか? でもそっかあ、浅田さん、玲子さんと東城さんに向けて、挙式するように〈ワンドの4〉で願掛けしてたんですね。願いが叶いましたね」
浅田が低い声で何か言い返している。
「え? 何ですか、聞こえない」
駆け寄って見上げると、浅田が足を止めて夏輝を見下ろした。
「あれは、玲子たちにじゃない」
「え? じゃあ誰に――」
夏輝の何の引っかかりもない問いかけに、浅田の眉間が一瞬で寄った。まさか、と思うや否や、浅田がまた背を向けた。ゆっくりと歩き出す浅田を夏輝も追う。しばしの沈黙のあと、
「――ま、部屋は余ってるし」
唐突に浅田が口を開いた。
「……はい?」
「夏輝はよく食うからな」
「はい」
「あれだったら、……うちに引っ越してきてもいいぞ」
「は……?」
「通うのが面倒ならってことだっ」
「え、それって嫁に来いっていう意味?」
何も答えず、ずんずんと浅田の歩調が早まった。
「ねえねえ、浅田さんってば」
浅田はやはり答えない。だが否定しないということは、肯定と受け取っても構わないということか。
「でもまだ付き合ってもないのにー。ていうか本当にどういう意味? そういう意味? それとも別の意味? ねえねえ」
「ああもう、うるせえ! じゃあ今日から付き合うぞ!」
後ろ姿の浅田の耳が、真っ赤になっていた。
「はいっ、わかりました」
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