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それから数日後、資料室で、また唇を重ねた。その日はいつもより官能的なキスで、東城さんの手が、私の服の中に潜り込んできた。びっくりして、本当にびっくりして、……どうしていいかわからなくて、思わずはねのけてしまった。ごめんなさい、でも会社ですし、などと言って、とにかく謝った。
嫌われたかと思ったけど、その後も東城さんは変わらず私に接してくれた。ホッとしたし、嬉しかった。やっぱり好きだなって、改めて思った。
「おはようございます東城さん。珍しい、今日はギリギリですね」
「いやー、うっかり寝坊して慌てたよ。走ってきたからのど渇いちゃった」
「……えっ」
あのとき――
「なに? 坂井さん」
「あ……いえっ、私、お茶いれてきますね」
「ありがとう、助かるよ」
そう、今までどおり接してくれる東城さんに、今までどおり応じていた私は、やっぱり、好きだったんだと思う。
「――おい、どうした」
数ヶ月前を漂っていた意識が、ビジネスホテルの浅田の部屋へと引き戻された。表の道路から酔っ払いたちの笑い声と、車がスピードを落として通過する音が聞こえた。
「あ……すみません、えっと、何でしたっけ?」
明るく語ったのに、浅田の目は少しも笑わない。
「そいつと出会った頃が、ピークっちゃあピークかな」
十字の一番左にあるカードを取って、夏輝に見せる。金色の聖杯を持った、白馬の騎士が描かれたカードを。
「〈カップのナイト〉。この絵の通り、白馬に乗った王子様だったわけだ」
「ええ、まあ……」
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