第一章 目隠しは誰がした?

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「もう一軒いいですか?」  肩には届かない短い髪をさらりと揺らして、坂井夏輝(さかいなつき)は言った。――酒の話ではない。 「もうやめとけ」  黒いTシャツにジーンズ姿の男が、胸の前で両腕を組み、渋い顔をした。夏輝はすでにパンツスーツの背中を見せて歩き出している。 「まだ九時半ですよ? これで最後にしますから」 「いいかげんにしろ」  男に肩をつかまれ、足を止められる。 「いいじゃないですか。まだいっぱい占い師さんいるんだし」  夏輝は前方を指差した。ここは最近できたという『占い街道』。街道といっても、大型ショッピングモール内の一角に、小学校の机サイズのテーブルと占い師がずらりと並んでいるだけだが。 「占いのハシゴをするな」  さっきから夏輝を諭しているのは、スポーツ刈りの、日に焼けた大柄の男。身長は夏輝より優に頭一つ高い。 「じゃあ先に帰っていいですよ。ええと……」 「浅田和正(あさだかずまさ)」 「そう、浅田さん。ホテルの場所わかりますから。先に帰っててください」  背を向けると、靴のヒールがコツ、と鳴った。ハイヒールではない。農園を歩くことを想定して、かかとの低い靴を履いている。     
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