第一章 目隠しは誰がした?

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 オフィスビルが立ち並ぶ市街の大通りに、夏輝の勤める会社はある。出張から帰ってきた夏輝の日常は、以前の繰り返しだった。何一つ、変わることはない。仕事も、東城とのことも。  資料室で探し物をしていたら、東城がするりと部屋に入ってきた。途端に夏輝の鼓動が高鳴る。 「探し物? 坂井さん」  いつもと同じ言葉をかけて近づいてくる。東城の整った顔が、すぐ背後に迫っていた。このあといつも、肩を抱いてくる。 「仕事熱心だね。少し、休憩しない?」  東城の手が、夏輝の肩に触れた。  今日こそは、といつも思う。今日こそはちゃんと、聞かなくちゃと。  東城の唇が近づく。  今日こそは――そう思うのに。  どうして聞けないのだろう。  どうして逆らうことができないのだろう。  いつまでこの関係を続けるのだろう。  私は、どうしたらいいのだろう……。 .
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