第一章 目隠しは誰がした?

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 この人と友達になれて、心底よかったと思う。  豪快にビールをのどに流し入れる。泣くだけ泣くと、夏輝はスッキリと立ち直れた。その様子を見て、玲子がほんのりと笑みを浮かべる。 「私も昔、タロットで占ってもらってたなあ」 「玲子さんが? なんか意外ですね」 「あら、私には悩みなんてなさそう?」  いえいえ、と夏輝は慌てて両手を振った。 「悩みは誰にでもあるものだと思ってます。玲子さんにだってそれは当然のことで。でも私が知ってる玲子さんは……」 「どんなイメージ?」  好奇心に満ちた目で玲子がのぞき込む。無邪気な顔をするとかわいいなあと思いながら、夏輝は残り少ないビールが入ったジョッキを見つめた。 「玲子さんは、悩みがあってもそれを他人には見せない。占いにも頼らず……というか占い師にも本音を隠して、一人で考えて答えを出す……そんな気がします。本当は泣きたいのに泣かない。だから周りは玲子さんが強い人なんだと誤解してしまう」  ジョッキの内側に張り付いていた泡がゆっくり流れ落ちる。孤独に見えたその泡は、残り少ないビールと合流すると、じんわりと広がって孤独の境界線は曖昧になった。     
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