第二章 逆位置の〈太陽〉

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 片道三十分。まぶしい太陽、新緑の山々、青々とした稲、黒い土がのぞく畑の畝。  最寄りのバス停留所へ降りた今日の夏輝は、Tシャツにジャージ姿。  近くの田んぼのあぜ道に立つ、麦藁帽子と青いつなぎ姿の男性に、夏輝は大声で名を呼んだ。 「浅田さーん!」  生産者名簿を頼りにやってきた。ここは浅田の自宅近くの田んぼ。 「何だお前、本当に来たのか!」 「連絡したじゃないですかー!」  この前は失礼な態度を取ってしまい申し訳ございません、占いの続きをぜひ教えていただきたく、会っていただけないでしょうか云々を電話で連絡した。浅田があっさり了承してくれたのはいいが、ついでに農作業を手伝っていけとの条件がついた。 「言われたとおり、ちゃんと手伝うつもりで来ましたよー!」  ジャージ姿を披露する。浅田が首に掛けたタオルで顔の汗を拭きながら近づいてきた。 「何だ、本気にしたのか。案外素直だな」 「からかったんですか!?」 「よし、じゃあ畑の方を手伝ってくれ。俺一人じゃ手がまわりきらないからな」  今の時期、田んぼは時々水見をするくらいで特にやることがないらしい。浅田のあとをついて畑に行き、昼までここで作業することになった。 「お前が見て、食い頃だと思う野菜をとってくれ」 「とり方に注意事項はありますか?」 「適当でいい。俺んちは米の出荷はしてるが野菜は違う。好きなようにとれ」 「ということは、この畑は自家用ですか?」 「当たり前だ」 「宝の山じゃないですかあっ!」  夏輝はたわわに実っている夏野菜に目を輝かせた。トマトやナス、キュウリが、組まれた支柱にのびのびと葉を伸ばし、重そうにぶら下がっている。どれもこれも艶っぽく光を照り返し、夏輝には宝石のように見えた。 「野菜を出荷してるとこの畑はこんなもんじゃないぞ」  笑いを含んだ顔で浅田が言うと、「本当ですか!」と夏輝はますます目を輝かせた。 「俺はあっちで草刈りしてるから。水分はまめにとれよ。庭に井戸場があるから勝手に飲め。ああ、あとそっちのトウモロコシも取っていい。のんびりしてるとカモシカに食われるからな」 「なに! くそぉ、カモシカめ!」  夏輝が大マジメに言うのを見て、浅田がゲラゲラ笑いながら「頼んだぞ」と片手を挙げて去っていった。
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