第二章 逆位置の〈太陽〉

3/38

14人が本棚に入れています
本棚に追加
/156ページ
 言われたとおり、せっせと野菜を収穫する。もうカゴでいくつ分になっただろうか。汗がダラダラ流れたが、ビル街のアスファルトの上で流す汗に比べたら、土の上で浴びる太陽の光と熱は、心と体に心地よかった。  そうやって夢中で働いているうちに、太陽が真上に来ていた。 「昼、うちで食ってくか?」  ひょっこり現れた浅田が声をかけた。浅田も汗だくである。 「いいんですか? じゃあ私、なにか作りましょうか」 「おう、頼む。お前が収穫した野菜、少し取って井戸場で冷やしてたから、好きなように使っていいぞ」 「じゃ、遠慮なく」  浅田の家は古い木造の民家で、街育ちの夏輝の目からはかなり大きく見えた。部屋数も多そうで、それだけで掃除が大変だろうと想像できる。  玄関は何の抵抗もなくカラカラと音を立てて開いた。庭に面した窓も全開。無用心とあきれるよりも、平和だな、と感心する。正直少し、うらやましい。  夏輝の棲家は、ここから片道三十分の距離にある市街のアパートで、夜中も明るくにぎやかだ。暑くても寒くても、しっかり施錠しておかないと安心できない。     
/156ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加