第二章 逆位置の〈太陽〉

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 庭の隅にある井戸場は、お化け屋敷にあるような滑車付きの円筒ではなく、四角い井戸。きっちりふたがされていて、中をのぞき見ることはできない。縁のあるコンクリート製の土台に囲われていて、そこから生えた細い水道管には、ホースのついた蛇口が取り付けられている。  ホースの先を目でたどると、大きなタライに突っ込まれていた。井戸水で満たされたタライには、野菜がめいっぱい入ったカゴがゆらゆらと浸かっている。夏輝のとったトマトやらキュウリやらが、涼しげに井戸水の中で寄り添っていた。  ホースを取り上げると、冷たい井戸水がチョロチョロと流れ出ている。 「贅沢だなあ」  夏輝の家でこれをやったら、水道代が大変なことになるだろう。  この野菜だけでも大量なのに、台所へ行ったらそこにも大量の野菜がカゴやらダンボールやらに入って、無造作に置いてあった。  うらやましく思いつつ、夏輝はとれたて野菜を存分に使って、山盛りの冷やし中華を完成させたのだった。  浅田は外から帰るなりまっすぐ風呂場へ向かった。シャワーで汗を流してさっぱりすると、Tシャツの袖を肩までまくり上げ、日々の農作業で鍛えられた筋骨隆々の上腕を惜しげもなくさらしている。  スポーツ刈りの頭を拭いていたタオルを首に掛けると、台所の食卓に並べられた昼食を見て目を丸くした。 「すげえなオイ……」  野菜山盛り冷やし中華の他に、カレー皿くらいの器にもトマトを山盛り。さらに別の器にも葉野菜を山盛り。     
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