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ようやく笑いによる震えを抑えた浅田が、麺を口に入れる前に言った。
「よく食う女は嫌いじゃない」
食事を終えて片付けを済ませると、浅田が隣の部屋へ夏輝を呼んだ。
庭に面した六畳ほどの和室には、脚の短いテーブルが真ん中にあった。掛け物を外したこたつらしい。夏用の涼しげな素材と柄の座布団。縁側があり、部屋との境に掛けられた大きな簾が、日光を遮っていた。
「座れ」と言って、浅田があぐらをかく。言われるがまま、夏輝も浅田の正面に置かれた座布団に正座する。軒下に吊るされた南部鉄器の風鈴が澄んだ音色を奏でると、少し遅れて夏輝の肌にも風を感じた。
「あの、改めて……先日は大変失礼致しました」
「もういいって」
言いながら浅田が腕を伸ばして扇風機のスイッチを入れた。すぐに夏輝の顔面に人工的な風が当たる。
「で? 今日はあのときの続きを話せばいいのか?」
扇風機の首が上向きにされ、室内の空気が静かにまわり始めた。
「はい、お願いします。……今のままじゃ、やっぱりダメだって思うから。変わりたいんです」
体を戻してあぐらを組み直した浅田が、夏輝の目をまっすぐに見つめてきた。一瞬ひるむが、背筋を伸ばして浅田の視線を真正面から受ける。
「よし」
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