第二章 逆位置の〈太陽〉

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「ここに二人の男女がいるとしよう。二人は一緒に遊園地でデートする約束をしていた。男は前日、遊園地に行くための準備をして寝た」  Vサインの中指が軽く二度ほど折れる。 「一方、女の方は――」  今度は人差し指が二度、折れた。 「前日に天気予報を見て、明日はどうやら昼頃から土砂降りになりそうだという情報を得る」 「遊園地なのに」 「そうだ。で、女は明日の持ち物に雨具も加えた。これで土砂降りをまともにくらうことはない」  ははあ、と夏輝は納得の意を込めて、声を漏らした。 「さらに目的地を遊園地ではなく屋内のものに変更しておけば、土砂降りでもまあ、デートは楽しめるだろ」  なるほど、と夏輝は二度三度うなずいた。 「彼女の行動は、未来を変えたというわけですね」  天気予報をタロット占いに置き換えて考えれば、運勢は変えられるのかという夏輝の問いは答えが出る。 「そっか、彼氏の方は降りかかる災難を知らず、何も準備しなかった……。まともに土砂降りくらって途方にくれるでしょうね」 「そういうこと。タロットは運勢の予報だ。絶対的な予知ではない。運勢の予報を参考にして行動を変えれば、未来ってのはどんどん変化する。行きたい方向と違うなら軌道修正すればいい。タロットは望んだ未来を引き寄せるための道具なんだよ」  軒下で南部鉄器の風鈴が、澄んだ音色を響かせた。     
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