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そういうんじゃない、という言葉を信じて浅田の部屋の前まで来てしまったが……。カードキーでドアのロックを解除している浅田の背中を見ながら、夏輝はまだ迷っていた。しかし部屋の前でモタモタして他の生産者たちに見られたらそれもまずい。
「入れ」
ひとまず浅田のあとに続いて、ドアの隙間へ身を滑らせる。浅田がさっさと部屋の奥へ行ってくれたので、夏輝はドアに張り付いて距離をおいた。
「あの、どういったご用で……」
部屋の造りは夏輝のと変わらない。ビジネスホテルの一人用の部屋。シングルベッドが一つ、壁際には長いテーブルとイス。ベランダはないから、いざとなったら窓は無理。この大男の筋肉質な腕を振り切って、ドアから逃げられるだろうか。
「何やってる、こっち来い」
「いやいやいや。ご用件を先にうかがいます」
「いいからこれに座れ」
浅田がイスをベッドへ向けて置く。恐る恐る歩を進めると、浅田はベッドの上であぐらをかいていて――その大きな手に持っている物を、夏輝は見逃さなかった。
「え? それ……」
「わかったら早く来い」
「えぇっ? うそっ」
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