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まだ思い出になりきれない記憶が、どんどんあふれ出す。夏輝へ向けられた東城の微笑み、言葉、やさしさ、タバコの灰を落とすときの指先の繊細な動き、肩に置いた手のぬくもり、初めて唇を重ねたときのこと――
「本当に、好きだったんです……」
東城さん――
いくつもいくつも涙がこぼれて止まらない。好きだった。東城さんのこと、本当に好きだった。でも、東城さんからは好きだと言われたわけじゃない。付き合おうと言われたわけじゃない。どこかはっきりしない関係に、いつも不安を感じていた。
「おいこら、あっ、とりあえずこれで……っ」
浅田が首にかけていたタオルを握りしめ、夏輝の目の前へ突き出した。
「これで、拭けっ、……顔」
ぽかんとして、浅田とタオルを見比べる。泣き顔を見せて、こんなに浅田がうろたえるとは思わなかった。
ふ、と小さく吹き出す。
「……何だよ」
「浅田さんの汗拭いたタオルなんかいりませんよ」
「な……っ、お前、俺はっ、お前が急に泣き出すから……っ」
あはははっ、と夏輝は大笑いした。
「あははじゃねえよお前! 何だよ泣いてたんじゃなかったのかよ!」
泣いてたはずだが、――浅田のおかげでもう泣き笑いに変わっていた。
「もう大丈夫です、ごめんなさい」
笑いながら指で涙を拭うと、浅田は「いや」だの「べつに」だのと言いながらタオルを首に戻した。
「じゃ、続きをお願いします」
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