第二章 逆位置の〈太陽〉

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 まだ思い出になりきれない記憶が、どんどんあふれ出す。夏輝へ向けられた東城の微笑み、言葉、やさしさ、タバコの灰を落とすときの指先の繊細な動き、肩に置いた手のぬくもり、初めて唇を重ねたときのこと―― 「本当に、好きだったんです……」  東城さん――  いくつもいくつも涙がこぼれて止まらない。好きだった。東城さんのこと、本当に好きだった。でも、東城さんからは好きだと言われたわけじゃない。付き合おうと言われたわけじゃない。どこかはっきりしない関係に、いつも不安を感じていた。 「おいこら、あっ、とりあえずこれで……っ」  浅田が首にかけていたタオルを握りしめ、夏輝の目の前へ突き出した。 「これで、拭けっ、……顔」  ぽかんとして、浅田とタオルを見比べる。泣き顔を見せて、こんなに浅田がうろたえるとは思わなかった。  ふ、と小さく吹き出す。 「……何だよ」 「浅田さんの汗拭いたタオルなんかいりませんよ」 「な……っ、お前、俺はっ、お前が急に泣き出すから……っ」  あはははっ、と夏輝は大笑いした。 「あははじゃねえよお前! 何だよ泣いてたんじゃなかったのかよ!」  泣いてたはずだが、――浅田のおかげでもう泣き笑いに変わっていた。 「もう大丈夫です、ごめんなさい」  笑いながら指で涙を拭うと、浅田は「いや」だの「べつに」だのと言いながらタオルを首に戻した。 「じゃ、続きをお願いします」     
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