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はい――とは言えなかった。声は、言葉にならなかった。右手で自分の口をふさぐ。両目からは、止めどなく涙が流れ落ちていた。
何の涙かはわからない。でも、東城から離れることへの、寂しさの涙ではないことはわかる。
浅田から押し寄せてきた熱いエネルギーが、夏輝の中に居座ったのを感じる。何て心強い存在感。夏輝は両手で涙を拭い、顔を上げた。
「私、やります」
弱かった部分に、強さが生まれた。
「やれそうな気がします!」
「そうか」
穏やかに浅田がうなずく。
「ちょうど私が憧れてる女性に〈ペンタクルの9〉のような人がいるんです」
夏輝は玲子を思い浮かべていた。
「だからまずは、その人を常にイメージして、真似することから始めてみます」
知性にあふれ、いつも金色の鱗粉を振りまいているような美しさを持った玲子は、夏輝の憧れであり、まさに〈ペンタクルの9〉そのものに思えた。
「それはいいかもな」
「ですよね! そっか、玲子さんをめざせばいいんだわ」
え、と浅田が声を漏らした。同時に顔がピクリと上がる。
「……誰だって?」
「私の飲み友達に葉月玲子さんていう女性がいるんですけど、その人が〈ペンタクルの9〉のようなステキな女性なんです! 玲子さんをめざしながら、正位置の〈太陽〉になりますね!」
浅田はしばし目を見開いて沈黙していたが、
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