第二章 逆位置の〈太陽〉

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 オフィスビルが立ち並ぶ市街。夏輝が勤める会社の、資料室。探し物をしていたら、今日も東城がするりと部屋に入ってきた。夏輝の鼓動が、高鳴る。  いつもなら鼓動の意味は、恋心。でも今日の鼓動は、緊張。自分を変えようと決めたから。変わることへの期待よりも、今はまだ少し、怖さの方が勝っている。 ――お前に不倫は無理だぞ。  浅田の言葉を思い出す。 「――探し物? 坂井さん」  東城の整った顔が、すぐ背後に迫っていた。他に人はいない。夏輝と東城の二人きり。いつもならこのあと、東城が肩を抱いてくる―― 「坂井さんはいつも仕事熱心だね。少し休憩しない?」  東城の手が、夏輝の肩に触れた。 ――お前は本来、〈太陽〉の正位置なんだよ。  胸の奥で、エネルギーの核がきらりと光った。  浅田さん―― 「あ、あの!」 「……どうしたの? 坂井さん」 〈太陽〉の正位置、〈ペンタクルの9〉……。呪文のように繰り返す。  だがその間に東城の顔が近づいてきた。東城の、唇が。 ――お天道様の下を堂々と歩けないようなことは、お前の性に合わないんだよ。  夏輝の脳裏に浮かぶ、浅田の言葉。そしてあのとき夏輝へ押し寄せた、熱く、大きなエネルギーが蘇る。     
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