第二章 逆位置の〈太陽〉

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「浅田さん、私やったよ」  空だけ見ていると、オフィス街にいる実感は希薄になった。浅田の畑で見た空と、同じに思えた。  ふと思いついて、ポケットからケータイを出す。仰向けのまま迷いなく画面を操作すると、耳に当てた。 『もしもし?』 「――あ、もしもし浅田さん? 坂井です。坂井夏輝です」 『おう、どうした』  真っ青な空に、白い小さな雲がのんびり流れてゆく。 「週末、またお手伝いに行ってもいいですか?」  雲よりもずっと高いところで、太陽が今日も明るい光を放っている。 「もっともっと、太陽の光を浴びたくなっちゃいました」  東城といたときはあんなに緊張した声だったのに。今はこんなにも明るく、自分らしい。 『おう、また腹いっぱい食っていけ』  浅田もまた、堂々として、浅田らしい声をしていた。 .
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