第二章 逆位置の〈太陽〉

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 だって恋人なのに、と夏輝は唇を尖らせカードを観察する。裸の男女と、女性のそばにいるヘビ――旧約聖書のアダムとイブをモチーフにしていると本で見たことがある。上空では二人を祝福するかのように、神々しい天使が翼を広げている。 「どう見ても恋愛成就のカードにしか見えませんけど」 「もっとよく見ろ。その男女は何を見ている?」 「何ってお互いを見つめあって……ないわ」  夏輝は目を大きく開けてカードを見入った。男性はたしかに女性を見つめているが、女性は男性を見つめていない。 「この女の人、天使を見てる」 「そう。で、女性の背後には何がいる?」 「エデンのヘビ」  旧約聖書の『失楽園』では、このヘビに誘惑されてイブが果実を食べてしまったことから、アダムとイブは楽園を追放されてしまう。 「そう。つまりこのカードに描かれているのは、誘惑に負けず、直観に従って正しい選択をするということだ」  男性は顕在意識や知性を、女性は潜在意識や感情を表しているらしい、ということも浅田が教えてくれた。本能的なことを表す女性が、誘惑の象徴であるヘビに惑わされずに、崇高な天使を見上げる。天使は、それでいいのだと祝福している。故に直観に従って正しい選択をせよということだ。 「正しい選択をしろと言われても……」  何が正しいのかわかりゃしないときもある。 「あれこれ理由つけて選ぶんじゃなく、お前がいいと思った方へ素直に行けってことだ」 「……わかりました」     
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