第三章 三つの聖杯といびつな宴

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 玲子のその言葉を最後に、夏輝は眠りに落ちた。 「――おい! お前なあ、女がそんなつぶれるまで飲むんじゃねえよ!」  浅田の声がする。静かだ。浅田の声はうるさいが、さっきまでの店内の喧騒はまるでない。 「いいかげん起きろ! お前んち知らないんだからよっ」  体が横になっていて心地いいのに、浅田の声がまだうるさい。 「……『お前』じゃないもん。『夏輝』だもん」 「じゃあ夏輝。起きろ夏輝。いいかげんにしろよ夏輝。アホだろ夏輝」 「もう、うるさいなー! 誰がアホよバカッ! 大体ねえ、恋人って言われても――」  体を起こしながらわめく。 「え? いやだから、玲子とは今は――」 「わっかんないよ! 直観で正しい方を選べとか言われてもさ! 何が正しいのかわかんないよ!」 「……そっちか」  重いまぶたを開け、目の前の景色を見る。 「どこここ」  少し離れたところに飲食店のまぶしい看板が見えるものの、あたりは暗い。 「店の近くの駐車場。俺の車ん中」  浅田は運転席にいて、夏輝は助手席にいた。背もたれが少しだけ倒してある。 「え、何でこんなことになってんの? 玲子さんは?」 「とっくに解散して、もう帰った」 「えーそんな! 今日何も話してないよーっ」     
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