第三章 三つの聖杯といびつな宴

9/19
前へ
/156ページ
次へ
「いいからお前んち教えろって。送ってやるから」  送ってくれるのかラッキー、と夏輝は思ったが、 「玲子は昔っから自分ちに呼びつけるから場所わかるけど、夏輝は俺んちに来るからなあ」  浅田の独り言を聞いた途端、何かすっきりしないねじれた怒りが込み上げ、夏輝は激しく顔をしかめた。 「どうした? 吐くのか?」 「――不愉快」 「は?」 「直観に従って正しい方を選べばいいんでしょ? 不愉快だから帰る。さようなら」 「いや送るから家教えろって。お前ベロベロ……」 「いいっ! 歩いて帰るし! 絶対家教えないから送んないでバカ!」 「バカはお前だ! 女がこんな夜更けに一人で歩くな! そんなに家教えたくないなら俺んち連れ込むぞ! いいのかそれで!」 「受けて立とうじゃないの! どこだって好きなとこ連れていきなさいよ! 私寝るから着いたら起こして!」  助手席の背もたれを勢いよく倒す。 「バッカヤロウ! そういうことをなあ!」 「何よ!」  いら立ちがまじった、盛大なため息を浅田が吐き出した。 「一生後悔するから、東城には言うなよ」  まだいらだちは含まれていたが、大分粗熱が取れた声音だった。それだけに、浅田がわりと真剣に心配しているのだと察する。     
/156ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加