第三章 三つの聖杯といびつな宴

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「ようやく見えたな。動くなよ。首だけ動かせ」 ――ということは、まだしばらくこの体勢でいるということだが。いけない、自覚するとまた動揺してしまう。  夏輝の焦りとは逆に、浅田は落ち着いた口調で語り始めた。 「星は、昔から希望の象徴なんだ。航海する者は北極星を頼りに航行したし、タロットの〈星〉にも、希望という意味がある」 〈星〉のカードは、大きな星と小さな星が輝いている空の下で、裸の女性が両手の水差しから、大地と湖に水を注いでいる――たしかそんな絵だ。 「落ち込んで下向いてるやつも、星を見ようとすれば自然と上を向く」 「ああ……、なるほど」  浅田の大きな手の下で、ふふ、と小さく笑う。今のは、私に向けられた言葉なんだろうな、と思った。東城とのことは終わったこととはいえ、やはり時々は情緒不安定になってうつむいてしまう。 「お前も、たまには星見とけよ」 「そうします」  不毛な恋を終えることができたのだから。希望を抱いて、新しい人生を歩もう。 「ねえ浅田さん」 「何だ」 「カードの一番上、今は何にしてるんですか?」  以前は玲子のための〈審判〉。その次は夏輝のための〈太陽〉。 「あー、〈ワンドの4〉だな」     
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