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んじゃよろしく、と言い残してガラハはBarのドアを粗雑に閉めていった。ほどなく入れ替わるようにして、小麦色に焼けた少年がドアから顔を出した。
「ただいま。」
「おぉ、チエーロか。」
「買い出し、済んだよ」
「よし、よくやった。」
チエーロは跳ねるようにカウンターに近づき、手荷物を置くとその中から新聞を引っ張り出して、カウンターに広げた。
「韓国の前大統領が収賄で捕まったって。」
「いつもの事だ。あの国の大統領はまともな末路を辿らない。」
この街でストリートチルドレンをしていたこいつを拾ってから、かれこれ10年になる。名前すら持たなかったこいつに、チエーロという名前をつけたのも俺だ。
この街じゃストリートチルドレンなんてそう珍しくないのに、俺は何故チエーロを気に留めたのだろう。今になって思えば、あの時のチエーロが小さかった頃の自分に思えて仕方がなくて、絶対に自分と同じ運命を辿らせまいと、そう咄嗟に思ったからだろう。
10年間でチエーロは、かつて自分の背丈くらいあったカウンターの椅子に座り、英字新聞を読みながら時事について話せるまでになった。俺の手柄って訳じゃあないが、ある種の達成感は感じている。
何より、この腐った街にありながら、その瞳が澄んだままでいてくれていることが、俺にとって何よりの歓びだ。
この街で、汚い空に塞がれて一生を終えるのは、俺だけで充分なのだから。
「そう言えば、八百屋のサトー爺ィから面白い話を聞いたよ。」
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