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決心と、覚悟と
昨晩はなかなか神経を遣った。ドゥーショ側にはガラハと数人の幹部、そしてボスであるザノまでもが顔を揃え、そして三合会のお歴々十数人は黒服に身を包んで立ち並び、「グリザイユ」は今までにないほどの緊迫感に満たされていた。
俺が今朝寝坊をしたのも、そのせいだ。
20歳以上も離れたチエーロに叩き起こされるとは、いやはやお恥ずかしい。
そして今日も、Bar「グリザイユ」は午後8時に開店する。
といっても、入り組んだ構造の『明星街』の裏路地を奥に進んだところにあるこの店には、そう多くの客は来ない。馴染みの客が同じような時間に顔を出すだけだ。
その、はずだった。
カラン、とドアベルが鳴る。時刻は8時7分。この時間なら、普段客はまだ来ない。
現れたのは、この街に似つかわしくない、ネイビーのスーツを着こなした白人だった。
一昨日、チエーロが話した内容が蘇る。白人。
「本当にこんな奥まったところにBarがあるなんてね、驚いたよ。」
「……いらっしゃいませ。」
男は、厭にこなれた笑みをこちらに投げかけた。
間違いない。こいつは、こっち側の人間だ。
「やぁ、マスター。いや、『キラー・ウィード』とお呼びした方がいいかな?」
「…………!!」
「『キラー・ウィード』の名はアメリカにまで響いてる。10年以上も前、フランスの資産家カステレード家に使用人として潜入し、家長ダミアン・カステレードの一人娘であるジャンヌを拉致、カステレード家から多額の身代金と軍需関係の利権をむしり取った挙句、身柄を返すことなく殺害した、伝説のヒットマンだ。」
違う、違う、違う。
俺が、俺が殺したんじゃない。
俺は、一緒に逃げるつもりだったんだ。
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