9人が本棚に入れています
本棚に追加
「強い風が吹いてね、花びらが舞うの。その花びらが空に吸い込まれるようになってるのが好きなの。」
空か。ここからは、空も見えないし、風も感じないからね。
「いつかきっと、あなたにその景色を見せてあげる。」
結局、その景色を見るどころか、春になる前に彼女は死んでしまった。
僕は一人取り残されてここに佇んでいる。
不意に扉が空いて、男の声が入って来た。
「ここが…あの娘の……なんですか?」
声がくぐもっていて聞きにくい。続いて、声の主が入ってきた。
若い男性だ。二十代程だろうか。チェックの
シャツを羽織り、ジーンズを履いている。誰だアイツは。
「ありがとうございます。ここで少し一人にさせて下さい。」
ドアが閉まり、アイツと僕だけになった。
アイツが僕に歩み寄って言う。
「君があの娘の大切な仲間なんだね。」
仲間じゃない。それより上だ。少なくとも僕は……僕はそう思っていた。
「………僕は、あの娘が好きだった。」
あの娘…何だって?彼女が好きだった?そんなことは認めないぞ。彼女は僕に
「あなたがいるから、私は頑張れる。」
って言って笑ってくれたんだぞ。
最初のコメントを投稿しよう!