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その時、明かりが付いて、彼女のお父さんが顔を出した。
「大丈夫ですか?」
ピアノの音が聞こえたからだろう。
「すみません、あの娘が弾いていたと聞いて、弾きたくなってしまって。」
アイツがそう答えた。ドアが閉まり、明るくなった部屋を僕は改めて見渡してみる。
小さな穴の空いた防音の壁、ツヤツヤに輝く床、
そして僕の目の前にはたった今鍵盤の蓋を閉めたアイツが居る。
相変わらず無機質な部屋だ。彼女はピアノを練習する部屋として、小さい頃からこの部屋を使っていた。
僕は、この家が出来た時からここに居る。彼女はここの家の娘で、ピアニストの母とバイオリニストの父の間に生まれた。彼女はどちらもの楽器の才能を持っていた。
それが良くなかったのだ。彼女をピアニストにするか、バイオリニストにするかで家族は荒れた。彼女がピアノを選んだため、結局ピアニストになることで決着がついたがこの出来事は彼女の幼少期に暗い影を落とした。
あまり恵まれない幼少期を過ごした彼女は次第に僕に話し掛けるようになった。初めて話し掛けられた時は驚いたものだ。
初めは僕も黙って聞いているだけだったが、鍵盤を鳴らすことで返事を返すようになった。
この事は、二人の秘密だった。さっきアイツにバレそうになって焦ったが、感傷に浸っていたからだろうか、何とか誤魔化せた。
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