此処でも彼方でも

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 姉が大きな目標を宣言しておよそ三年のこと。彼女は大学院を修了し、それまでの成績が良かったこともありスイスの研究所に就職した。  一方の俺は、中学校に入学すると初めこそは勉学に励んだ。部活動もしたかった。しかしそれらはうまくいかなくなる。  原因は入学して一週間経たないある日のことだ。  「よ、雅也君。どこ小から来たの?」  「あ、西中です」  「おー、そうなんだ。雅也君別に敬語じゃなくていいんだよ?」  「なかなか慣れなくて…」  「そうなんだ。何か好きなこととかあるの?」  俺はその頃は同級生に対しても敬語を使うほどカチッとした男子だった。それにあいまってこう答えたのがまずかったか──  「宇宙が好きです!!」  半ば叫んだような形だった。好きなものに感情のベクトルが一気に向き、ついつい熱くなってしまった。すると彼らは突然何か腫物を見るような目でこう言ったのだ。  「そっか…、じゃ」  去っていった。  確かに小学生の時に道徳の授業で先の時代から理不尽な人間とぶち当たるということは習っていた。だが、それまでそんな経験はなかった。また、そんなことはあるのか、と半信半疑だった。  だが、まさしく現実は残酷だった。  あの日からのあだ名は、  『まじめ君』、『ガリ勉』、さらには『宇宙人』…などなど  姉とは対照的に俺はみるみる生気を失う。それまで熱心だった宇宙にも関心は薄れ、心身ともに疲弊していった。  一年後に姉が帰省した時だ。  「…雅也、どうしたの?!」  「いや、別に…」  「疲れているだけだよ」  多分そんな会話をした気がする。短い会話。  その後再びスイスに戻るまで、姉は俺のことを心配してくれた。ファミレスに連れて行ってくれたり、ボウリングに一緒に行ったり、したと思う。  だがそれらはもはや鬱陶しい以外何物でもなかった。ストレスだ。しんどかった。  何より姉が宇宙の話をしてくれた。それが、いじめの原因となった宇宙のことが一番辛かった。  姉はその後戻ったが、ますます宇宙からも関心など失せていく。  俺はいつしか俯きながら日々を過ごすこととなった。
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