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ゆめ
「ほら! 私は、こんなに元気なのよ。どうして、外に出てはいけないの?」
私はその場で跳び跳ねてみせた。そして、いつものように親を困らせる。
「親を困らせて何が面白いんだ。いい加減にしないか!」
父は怒鳴り、母は涙ぐんでしまう。
「だって、そんなこと云ったって、私、分からない!」
「何、聞き分けのないことを云ってるんだ。ちゃんと説明したろ。何で外へ出てはいけないのか。あの時は、お前も納得したろう。それを何だって今さら…」
「あんな説明分からないわよ! 分かりたくもないわ! 今まで何ともなくて突然何だもの。私には何が何だか、分からないわよ。毎日毎日こんな真っ暗な世界で暮らすのなんか。こんな生活もういや。気が変になっちゃうわよ!」
「いい加減にしないか!」
パチン!
「!!」
右の頬が熱くなった。
「………いや。いや、いや。もういや。出てって。パパもママも出てって!」
私は両親を部屋から追い出した。
またやってしまった。親が悪いわけではない。でも、親の顔を見るとついわがままがでて、ケンカをしてしまう。
それに。
それに、わかっている、病気のこと。頭では分かっていても、気持ちが分かろうとはしない。病気は嘘で、外で遊べると思っている。
頭と気持ちがチグハグなぶん神経が苛立ちヒステリックになっていく。
そんな自分が嫌だ。
いっそのこと外へ出てしまいたいと思う。日の光を浴びたい。でも、そんなことをしたら死んでしまう。
でも、外へ出たい。
出来ない、そんなこと。
私は外へ出たいという気持ちを、今まで打ち消そうとしてきた。でも、打ち消そうとすればするほど、外へ出たいという気持ちは、大きくなるばかりで、消えはしない。
外へ出たいという気持ちと、外へ出たら死んでしまうという現実。その二つが頭の中でグルグル回る。
回る、回る。
回転には出口がない。入ったら最後、永久に回転の中に居なければならない。病気という回転の中に。
回転を止めれば外へ出られる。でも、私は回転を止める物も方法も、何も知らない。
誰に聴いても分からない。
今は、どうすることも出来ずにその中に居る。
自然と止まるのを待つしかないのか、いつ終わるのか分からないものを待って。
そんなの、嫌、だよね。待つことなんて出来ないよね。治る前に寿命が尽きてしまうかもしれないのに。
だったらいっそ外へ出てしまったほうがスッキリするかもしれない。
早く、このモヤモヤを消してスッキリとしたい。
私は自問自答のすえドアを開けた。
「きゃっ!」
ドアを開けると凄まじい量の光が、私を襲った。
目を閉じて、手で遮り、その場に座り込んでしまった。
「何なのよ、この光は。何で光までもが私の邪魔をするのよ!」
「行ってはならぬ!」
声が聴こえた。
「誰? 誰なの?」
「行ってはならぬ!」
また、声が聴こえた。
その声は前から、光の中から聴こえてきた。
「何故、どうして?」
声のする、光の中に向かって話しかけた。
「せれは、自分自身がよく知っているはず」
「それは、そうだけど、だけど外へ出たいのよ! 私は!」
「自殺行為だ!」
「それでもいい。私は外へ出たいの。お願いだから、邪魔をしないで。行かせて!」
「それはできぬ」
「どうしても、行かせてくれないのね!」
「行ってはならぬ」
「邪魔をされても、私は行く。それで死んだとしても。こんな生殺しの状態よりは、まだましだもの」
私は意を決し、前へ、光の中へと進み出た。
光は手強く、目をつぶっていても眩しいぐらいの光の量。それに、押し潰されそうなくらいの重圧感。
「行ってはならぬ」
「いや、絶対にいや!」
光の壁は、一歩進むごとに倍になって襲ってくる。だからといって、このまま引き下がるわけにはいかない。
数歩進むと、もう一歩も前へ進むことが出来なくなった。
光が身体中を圧迫してくる。それでも、私は前へ進もうとする。
「行ってはならぬ」
光はもうそれしか云わなくなっていた。
「いやよ、絶対にいや!」
少しでも気を抜けば、押し返される。私の身体も精神も、長いあいだの戦いで極限まできていた。
「行ってはならぬ」
私の中で、何かがキレタ。
「いや! いやあぁぁぁぁぁぁぁ!」
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