夢の終わり

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 太陽の光が沈む夕方時。薄暗い座敷牢に蝋燭の明かりが灯された中で、数人の女性たちがあやめの着つけを施していた。あやめは桜柄の刺繍が施された雪の様に白い純白の白無垢を身に包み、薄化粧を施しては、柔らかい唇に紅をひいた。包帯が巻かれていた右目には、桜の花で飾りつけられた眼帯を身に着けていた。綺麗な花嫁衣装に着替えたあやめは、微笑みを浮かべるが、どこか悲しみに満ちた感情を押し殺し、必死に耐えているかのようだった。 (姉さんも、こんな気持ちだったのかな…)  ふと、あやめが五歳の時に【鬼】へと嫁入りしてしまった姉のことを思い浮かべていた。姉も綺麗な花嫁衣装に身を包み、穏やかに微笑んでいたが悲しみを出さない様に、必死に取り繕っていたように思えた。きっと、姉も悲しくて、怖くて、辛くて、不安でいっぱいになって、逃げ出したくても集落の皆のことを思い、逃げ出せなかったのだろう。集落の長の血を引く子供として生まれ落ちた時から、決められてしまった運命。【鬼】の供物として捧げられる運命。集落の皆が悲しむ中で、自分だけは綺麗な笑顔を浮かべて精一杯胸を張って、前を見据えて見送られたのだろう。あやめは顔を伏せながら、自分の運命を受け入れたのだった。 (私も姉さんみたいに、胸を張って行こう)
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