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幾度目かの朝と夜を繰り返して、あやめと琥珀は成長し、身長が昔より伸びて、顔立ちも幼い面影を少しだけ残し、大人への仲間入りをした。そうして、あやめはもうじき齢十五の年を迎えようとしていたのだった。【鬼】へ嫁入りするまで、残り時間が僅かしか残されていない。【鬼】へ嫁入りしてしまえば、もう夢の世界へ、琥珀と会うことも出来なくなるだろうと考えると、悲しくて寂しい気持ちがあやめの心を支配するのだった。本当はずっと、琥珀といたい。【鬼】へ嫁入りをしたくない。けれど、【鬼】へ嫁入りしなければ、集落の全員に危機が及んでしまう。それだけは避けたかった。
「ここは本当、綺麗な景色だね」
自分にしかできない使命なのだろうと、あやめは諦めにも似た心地でいた。そんな寂しさや悲しい気持ちを吹き飛ばすかのように、琥珀に心配かけないように、あやめは努めて明るい声音で話しかけたのだった。
「琥珀が手入れしているおかげだね」
「…大したことはしていないが、あやめが嬉しいなら俺も嬉しい」
ぷいっとそっぽを向いた琥珀の頬は、紅く染まっていて褒められて照れているのが、とても可愛らしく思えて、あやめはくすりと笑う。以前、夢の世界へと来た時に、湖の周りに生えている桃の木は、すべて琥珀が世話をして管理をしていると聞いた事があったのだった。こんなにも瑞々しく葉が生い茂り、美しい薄紅色の桃の花をつける桃の木を育てた琥珀の心はとても純粋なのだろう。一生懸命に丹精込めて育てなければ、植物は応えないのだからとあやめは思った。
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