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あやめは一人、心の中でこの美しく鮮やかに咲き誇る桃園と湖の風景も、そろそろ見納めかと思うと、心がひどく痛みを訴えてくるのだった。心の痛みを我慢しながら、あやめは琥珀と一緒に話をして過ごしたのだった。琥珀に対して、何度も告げようと試みたのだが、結局、【鬼】へ嫁入りするから、もう会えないだろうと琥珀に告げる事が出来ずに、寂しげな表情を浮かべて顔を伏せたのだった。
(ああ、できることなら、ずっと覚めないでほしい)
琥珀が隣にいてくれるのは、とても居心地が良くて好きだ。
(どうか、夢よ、まだ覚めないで)
あやめは願いを込めてそっと手を伸ばすと、琥珀の褐色の手をぎゅっと握る。琥珀は一瞬、驚いた様子を見せるが、やがて柔らかい表情を浮かべると、あやめの色白の細い手をぎゅっと強く握りしめ返してくれたのだった。
薄紅色に色付いた桃の花が、静かに二人の事を見守ってくれていた。
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