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夢というのは、目が覚めたら消えてしまう儚いものだ。それでも、あやめの孤独で、寂しくて、悲しくて、薄暗い世界から救い出してくれた優しくて、温かくて幸せな夢。あやめの黒色の瞳からは、我慢できなかった涙がほろり、ほろりと零れ落ちては、床に落ちて消えていくのだった。宝石の様に、きらきらと輝きを増しながら、零れ落ちる涙は止まることはなく、あやめは立っているのが辛くなって、泣き崩れたのだった。
(もう、君に会えなくなるのが辛い)
表情はあまり変わらないけれど、穏やかで誰よりも優しくて大切にしてくれた琥珀と、もう会えないのがとても悲しい。もう琥珀の穏やかなで低い心地よい声も聞くことが叶わない。もう琥珀と手をぎゅっと握って触れることが叶わない。そうして、はらり、はらりと涙を零す中、初めて気付いてしまった。あやめは琥珀に対して『恋』をしている。どうしようもなく恋い焦がれているのだと、知ってしまった。好きで、愛おしくて、けれど、切なくて。この想いが、誰かを恋しくて好きだと想う気持ちが、恋なのだと知ったあやめは、ますます悲しみに顔を歪ませて泣くのだった。
(琥珀のことが、好き)
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