夢の終わり

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自分の本当の想いに気付いてしまったが、時既に遅かった。叶うことならば、ずっと琥珀と共にいたい。夢の世界の様に、薄紅色の桃の花が咲く桃園と綺麗に透き通る湖がある場所で、ずっと、一緒にいて、お互いに笑い合いたい。求める様にそっと手を伸ばしても、空を切って掴めることは無く、鉄格子に阻まれてしまい、籠の中に閉じ込められたあやめの想いは、もう届かない。実感してしまった想いは、ますます胸が張り裂けそうになるぐらいに心を苦しめて、とても痛んだ。もう琥珀に対して、好きだと、愛していると伝える術は残されていない。思えば、あやめは生まれ落ちた時から、自分の人生は決まっていた。集落の皆を助ける為には、【鬼】への嫁入りを果たさなければならず、逃げ出すことは許されない。涙を流すあやめは、痛みと共に、心の奥底に琥珀に対する想いを仕舞い込んで、墓場まで持って行こうと決意を固める。竹籠の中にいた金糸雀は、歩いてそっとあやめに慰めるかのようにして、寄り添うのだった。泣くだけ泣いたあやめは、着物の裾で、止まらない涙を拭うと鉄格子の隙間から見える空を見上げた。残酷なほどまでに、雲一つもない綺麗な青空が広がっていた。  齢十五の年を迎えたあやめは、今宵、【鬼】へ嫁入りをする。
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