夢の終わり

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今宵、齢十五の年を迎えたあやめは【鬼】へと嫁入りをする。白無垢に身を包んだあやめは、時間になるまで一人だけで座敷牢に取り残されていた。座敷牢をゆっくりとした動作でぐるりと見回して、名残惜しそうに十年間過ごしてきた座敷牢の風景を見納めた。美しい布で包んだお手玉、手鏡、竹籠の中の金糸雀や琴、漆黒の棚の中には、さまざまな種類の書物。色鮮やかな着物が数着、仕舞い込まれていた。紅色の杯の中には桃の花がぷかぷかと浮かんでいて、綺麗な小箱の中には星のようにきらきらと輝く金平糖が詰め込まれていた。各地の偉い人から贈られたものよりも、琥珀と瑠璃が贈ってくれたものは、自分のためを思って贈ってくれたものだったので、とても気に入っていて大好きだ。桃の花に色付いた金平糖を一粒だけ手に取って、口に運ぶ。砂糖と桃の甘さが口の中に広がって、とても美味しい。瑠璃が鉄格子の隙間から両手を差しだして、星の雨を降らせてくれた思い出深い味だ。あやめはそっと、竹籠の中にいる金糸雀を両手に乗せた。優しい手つきで金糸雀の頭を撫でると「ぴぃ」と嬉しそうに鳴いたので、あやめは穏やかな笑みを浮かべた。 「ももちゃん、今までありがとう」   あやめが金糸雀に対して、名残惜しそうに別れを告げた。すると、金糸雀にもあやめの言いたい事が伝わって来たのか「ぴぃ、ぴぃ」と抗議するかの様に羽ばたいた。そうして、金糸雀はてこてこと歩くと、あやめの白無垢の裾にすっぽりと入り込んでしまったのだった。 「もしかして、あなたも一緒に来てくれるの…?」  目を見開いて、驚きにぱちぱちと瞬かせたあやめがそう訊ねると、「ぴぃ」と金糸雀は返事をするかのように鳴き声をあげたのだった。あやめは花が綻ぶかのような笑顔を浮かべながらお礼を言うのだった。 「ありがとう…ももちゃん」  十年間、座敷牢で暮らしてきた中で金糸雀とは長い付き合いになっていた。その金糸雀が最後まで、あやめに対して着いて来てくれる事が嬉しい。思わずあやめは涙を零しそうになったが、何とか堪えるのだった。
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