第三章 薄荷

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 前領主は、人徳者として有名であったため、兵もその人柄に心酔し、集ったものが多いと聞いていた。きっと彼もそういったものの一人であることが慮れる。でも。でもそれは、家来にとって、の話である。彼に言うべきかどうか。私は一瞬迷う。けれども、口を開いた。 「今の領主様は、小さい時はとてもお優しい、虫も殺せぬお方だったのです。そして戦や争いが嫌いでした。でも今は戦国の世です。それを気にされた前領主様が、毎日叱咤され、檄を飛ばし、無理な鍛錬等課せられておりました。毎日お部屋から泣き声が聞こえていました。そばで聞く私が辛いほどに」 「そ、そうなのか」  明らかに動揺した声がする。少し間をおいて続けた。 「今の領主様は、あの国の全てがお嫌いなのです。城も、領地も、領民も。お父上が大事にされていたもの全てが憎しみの対象なのです。このままではあの国の先は長くはないでしょう。そうなってしまわれるほど、お辛い毎日だったと思います。ですから。一概に責めることはできません」  だから。私の今置かれている、身の上も含めて、すべて。 「仕様がないことなのでしょうね」  私はそう言って、そっと薬を枕元に置いた。しばらく黙っていた才四郎が、口を開く。 「だからと言って、あんたの所に夜這いをかけた上に、思い通りにならなかったら、殴って、身ぐるみ剥いで、国を追い出すってのが許されるわけじゃないだろう」  またこの人は。はっきりというのだから。思わずくすりと吹き出してしまう。     
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