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まるで、どこからか見ていたかのような拍子で、女性が漆の盆に、食事をのせて現れた。大きな茶碗に入ったお茶漬けはとても温かそうで、奈良漬の香りもよく美味しそうだ。
「前にどうかされましたか」
思わず、ご飯の方に気を向けてしまい、慌てて彼を見上げるも、完全に話の機会を奪われたことに、ため息をついて、才四郎が首をふる。
「まあ、いいや。とにかく冷めないうちに食おう。あとこれ」
才四郎が、小さな皿を私の前に差し出す。見ると三色団子が載っている。
「疲れたら甘味だ。おなごなら、誰しも好きだたろうと思ったんだが」
少し声調を押さえて、恥ずかしそうに手渡された皿を、私は有りがたく受け取った。
「ありがとうございます。私も例にもれず、甘味は大好物なのです」
旅の茶屋の団子は疲れた旅人向けに、味付けを濃くしているようだった。城の品の物とはまた違い、美味しい。甘いお団子をたべて、ふと気持ちも和らいだ。
いつの間にか、先ほどの給仕の娘さんが仕事の合間に来て、才四郎と話をしている。雰囲気から、彼に好意を持っている様子が伝わってくる。私は城内に隔離された暮らしが長かったからか、よく分からないが、彼は背も高く、女性の気を引きやすい見た目なのかもしれない。そんなことを思っていると、私たちが座っている縁台のすぐそばを、上下褐色の服を着た男が過ぎた。
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