第二章 峠茶屋

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 ぞくりっと、強い悪寒が遅い、突然肌が粟立つ。  私は手にしていた団子の串を取り落としそうになりながら、辺りを見回した。すでに男は峠の入口の方へ、足早に歩みを進めている。今まで感じたことのない、憎しみに満ちた獣のような気配。今のは一体。 「小春。どうした?」  後ろから才四郎に声をかけられ、私は振り返った。 「いえ、大丈夫です。気のせいのようです」 「そうか。それを食い終わったら出立するか」  今の男とは、またいずれ会うのではないか。そんな不吉な予感が頭をよぎる。もう一度峠の入り口を見遣った。すでに男の姿はない。  思い過ごしならいいのだけれど。願うような思いを抱きながら私はそっと縁台に皿を置いた。
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