第三章 薄荷

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  私の言葉に、不服そうに返す才四郎の方を、衝立越しに見やり、聞こえないように小さくため息をつく。きっと彼は優しい人なのだろう。だから私の身の上や、怪我を見過ごせないに違いない。でも。あまり私に同情するのは危険なのではないですか。  あなたは数日内に私の首を打たないといけないのだから。  そう、思わず口に出しそうになる。 「まあいい。そろそろ寝るか」 「そうですね」  布団に入ってふと気づく。そういえば、衝立一枚で男性と同室で寝ている。今まで領主殿の話をしていたが、今夜は彼が襲ってくるとも限らないのだと。武芸が不得意な領主様であったため、私もなんとか身を守ることができた。しかし隣に寝ているのはその道の玄人だ。本気で襲い掛かられれば、ひとたまりもない。この気味の悪い容姿を見て、そんな気も無くなってくれればいいのだけれど。  そんなことを思い巡らしているうちに、気づくと眠りの底に落ちていく自分に気づく。久しぶりの旅で歩き疲れたのか、考えるのもだんだん面倒になり、泥沼のような眠りにただ身を任せた。  夜、一度だけなにかの声で目を覚ましたような気がする。才四郎と誰かの声。あれは確か一度だけ。今日の旅の途中に聞いたような女性の声……だったような。  でも夢うつつのことで、私はそのまま朝までぐっすりと眠り込んでしまった。
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