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第四章 龍笛(1)
道中、盗賊にあった。襲われたのは私達ではない。前を歩いていた農民の父娘である。
正午をだいぶ過ぎた刻だったように思う。平地を抜けて、森に入って少し行った辺り。この辺りは関所(幕府が倒れてからほとんど機能はしてないのだけれど)からも離れているし、東海道沿いとはいえ、宿場からも距離がだいぶある。しかも山道が多く、こういう所は山賊に襲われやすいらしい。つい先程もだいぶ昔のようだが、浪党に襲われたと思われる荷車が蔦を絡ませ侘しく置き去りになっていた。
町への買い出しの帰りらしかった。多くの荷物を手押し車に載せて、父が前、娘が後ろを押していた。その荷物が狙われたようだ。にわかに、前方が騒がしくなり、少し離れた場所で、才四郎に制止をかけられた。耳を済ますと口汚く罵る盗賊の喧騒と、許しをこう悲しい叫び声が聞こえる。
私は才四郎を見上げた。
「放ってはおけません」
「俺も同感だ」
才四郎が、彼方の様子を伺いながら答える。
「小春はあの親子のそばの木陰で、隠れていてくれ。離れられると、もしものときに困る」
「多勢に無勢ですが」
私が言うと、才四郎が鼻で笑う。
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