第三章 薄荷

1/6
210人が本棚に入れています
本棚に追加
/374ページ

第三章 薄荷

「部屋が一つ足りない?」  あれから、また数刻歩き、夕刻についた小さな街道沿いの宿場町の宿屋で、才四郎が声をあげた。  町の近くで何かの寄り合いの集会があったらしい。その影響で部屋が埋まっているとのことだった。私の身分もあるし、身の危険も案じて、襖で仕切られた隣同士の部屋を準備してくれる心算だったようだが、ここらで空いている宿屋はもうここのみのようで、後は、皆で雑魚寝をするような木賃宿しかないとのことだった。ない袖は振れない。なんの関係もない男性と同室で寝るのは、憚られるが、仕方がないと心を決める。 「才四郎。あなたが嫌でなければ、私は同室で構いません。部屋の真ん中に衝立でも立てていただければ」  衝立の準備は出来るということで、その宿屋に泊まることとなった。 「その痣はどうしたんだ」  宿屋に珍しく風呂があった。個室の内風呂だったのでありがたく頂き、上がって部屋に入りしな心底驚いたらしい才四郎に声をかけられ、私は、はたと立ち止まった。  彼の視線の先には、私の左腕の手首がある。     
/374ページ

最初のコメントを投稿しよう!