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シフトを終えて、家に帰った。
着たのは、学生服。チェック柄のスカートがポイントで、2回折って履くとギリギリの長さになる。
向かったのは、学校と反対側に自転車を漕ぐこと10分先のコンビニ。先月開店したばかりだからか、夕焼けの時間帯にも店の照明が眩しく見える。
「いらっしゃいませー」
入り口のスポーツ紙ではなく、カゴを手にして奥に進む。お菓子・パン・ジュースを適当に入れて、あとは化粧品売り場でしゃがみ込むだけ。
「お嬢ちゃん、どうしたの?」
ほら、きた。最短記録更新かもしれない。
顔を向けると、スーツ姿のおじ様が立っていた。腕時計と指輪を確認して、真ん中のリップを2つ手に取る。
「どっちがいいかなーって」
両頬に添えるようにして、掲げる。しかし、視線はそこではない。もちろん、計算済みだ。
「おじさんなら、どっちがいい?」
そのまま立ち上がって微笑むと、右手首を掴まれた。ここは、我慢。
「どっちが似合うと」
「うち、JKビジネス許可してないんで、よそでやってくれませんか」
気にせず上目遣いをしたが、おじ様はあっさり手首を離して立ち去ってしまった。
「...マジかよ」
背後の人間に聞かれないよう、唇を噛んだ。とんだ邪魔が入ったものだ。
「こんなことしてるから、おばさん達にバカにされるんだろ」
とっさに振り向いた。そこに立っていたのは
「うん、いいカオ」
例の金髪優良物件イケメン。制服を身につけているあたり、ここでも働いているようだ。
衝動のまま「サイアク」と呟きたいのをこらえて、リップを2つともカゴに放り込む。
「失礼します」
「下の名前は」
先程よりぐっと低くなった声に、思わず後ずさりした。
「バカ」という口元と共に、アゴで合図をされた。つま先立ちをして確認してみると、先程のおじ様が弁当を物色している。
「リ・コ」
声にしなかった私は賢明だったと思う。
このイケメンが、なにを企んでいるのかは別として。
「じゃあリコ、今日は上がるから、表で待ってて」
これは助け船なのか、それとも。
「送るから」
落ちた髪を、耳にかけ直された。ほんの一瞬触れる、太い指。
「!!」
ぞわぞわぞわっと寒気が、全身を駆け巡る。
これは、助け船なんかじゃない!!
「わかった。待ってる」
精一杯笑顔を作ったけれど、負け惜しみに見られるのだろう。目が笑っていない。
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