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「早く来てね」と首を傾けてもよかったが、あまりに痛々しいので、そのままレジに向かった。
「1690円になります」
唯一の救いは、レジの店員が男性だったことか。
伏し目がちにお会計を済ませてしまえば、まだ治まらない鳥肌も目立たないはずだ。
「レシートと、310円のお返しになります」
いまだに弁当コーナーの方から視線を感じるが、ここまできて応じる義理もない。
「ありがとうございました」
店を出て、すぐに店舗の裏側に回り込むのが最善ルート。
1番ダメなのは、中途半端に店内を除くこと。
大丈夫、脳内は機能している。
ひとつ、息を吐く。
「あ」
視線に入ったのは、ひとつの光。まだ明るさの残る空に、ひとつ、たしかに輝いている。
なぜか思い出したのは、4字の漢字。
「...同族嫌悪」
「おい」
車の鍵が開く音。
そういえば、私服姿は初めて見た気がする。首から上の雰囲気とはちぐはぐしていて、「勉強とアルバイトで両手がいっぱいです」というカンジ。
おばさん達が息子感覚で可愛がるのも、わかる気がする。...中身がこんなのでも。
「私、自転車なんで乗って帰りますね。また明日」
も・も・せ・くん。
唇をゆっくり動かせば、こっちのものだ。
舌打ちの音が、聞こえた。空耳かもしれない。どうせこの夏何度も顔を合わせるなら、確認なんてしなくてもいい。
夜になりつつある風を切りながら、あの星を追うようにして自転車を漕ぐ。
寒気ももやもやもとっくに引いていて、むしろ気分は爽快だった。
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